国際芸術祭あいち2022 愛知県民おそるべし!
— 2022年10月25日国際芸術祭あいち2022「STILL ALIVE―今、を生き抜くアートのちから」が7月30日から10月10日まで開催されました。これが何とすごいことか。「世界32の国と地域、五大陸から100組のアーティストが参加する国際芸術祭」で、4会場で展開されていました。会場が広い広い。愛知の中心名古屋市の栄にある愛知芸術文化センターだけじゃなくて、一宮市や、常滑市や名古屋市の有松地区にも、会場がありました。実際に私が行ったのは、愛知芸術文化センターと一宮市にある展示場(の一部だけ)でしたが、見応え十分でした。
まず一宮市に向かい、「のこぎり二」へ行きました。これはのこぎり屋根の旧毛織物工場が展示会場なんですが、そこには塩田千春の、赤い糸の世界がありました。
一宮はもとは繊維産業の町だったそうで、工場には、古い機械や糸巻きの芯なども残されていたのですが、塩田千春の赤い糸と不思議に融合していて、赤い糸が工場や機械やらと一緒になって「この地の記憶を蘇らせる」作品になっていました。
次が一宮市の閉鎖されているスケート場なんです。「今、世界から最も注目されているアーティストのひとり、アンネ・イムホフの日本初展示」だそうで、パンフレットには、「見逃せない展示」と書いてあって、実は私はアンネ・イムホフって知らなかったんですが、「見逃せない」んだろうと思って覗いてみたのですが、本当に素晴らしい作品でした。そこはブルーライトで照らされたスケートリンクの中で、その音と光の空間に足を踏み入れてみると、大きいスクリーンでの映像パフォーマンスがとても印象的でした。
旧名古屋銀行の一宮支店の建物は、歴史を感じさせる重厚な造りの建物なのですが、「オリナス一宮」と呼ばれていて、そこには、奈良美智の作品が展示されていました。「オリナス」の意味は不明なんですが、繊維産業の町だったから、「織なす」なんでしょうかしらん。
100年近く前の銀行だった建物に入ると、先ず、頭が重なった白い子供たちの作品が。
「Fountain of Life」(生命の泉)と名付けられたその子たちの目からは涙が流れていました。これは以前、奈良さんのN’sヤードの美術館でも見た記憶があります。
この作品をなぜ始めの展示室で見せているのかよく分かりませんでしたが、この作品は他と比べて無機質でとても悲しそうな印象を受けました。
気になったので「生命の泉」という言葉を調べてみたらドイツ語のレーベンスボルン(Lebensborn)が見つかりました。「生命の泉」と訳されていましたが、ナチスドイツ
がアーリア人増殖のためにつくった収容所で、未婚女性がアーリア人の子を出産することを支援していたようです。奈良の作品の子供は目から涙を流しているのですが、関係があるのかもしれませんね。
さらに中へ進むと、まぶたを閉じた少しおだやかな奈良の少女「Miss Moonlight」。
こちらの作品を見ると、慈愛にみちた表情に、髪の毛にきらきらと光りがかかっていました。奈良さんとしては、今の世界で戦争などの悲しみに絶えない今日だけれども、何か希望を持って生きてほしいというメッセージをこの少女に託して発信されてるのかなと感じました。
それから急いで名古屋市に戻り、愛知芸術文化センターへ行ったのですが、これがまたすごすぎでした。
現代美術の外国の作家の作品も多数展示されていて、とても全てを観ることはできなかったのですが、やはり河原温(かわらおん)と荒川修作の作品が展示されていたのが印象的でした。
河原 温の作品は、「電報」がたくさん並べられていました。
解説によれば、「河原温は国際的に広く知られるコンセプチュアル・アーティストの一人です。本芸術祭出品の電報を用いたシリーズ《I Am Still Alive》は、1970年に始められ、2000年までに約900通が世界各地の知人、キュレーターなどに送られました。電報はそもそも緊急性を伴う連絡手段ですが、「私はいまだ生きている」とは、河原が死に直面しているとも受け取られるメッセージです。この電報を受け取った人は、何を思ったでしょうか?パンデミック以降の世界では、とりわけ心を揺さぶります。
河原温は1969年12月に自殺をほのめかす3通の電報をパリの展覧会に送り、その1か月後に最初の《I Am Still Alive》がコレクターのヴォーゲル夫妻に送られています。これらを成立させているのは各地の電報や郵便制度ですが、これを30年間送り続けた行為そのものは彼の生存の証となりました。国際芸術祭「あいち2022」のテーマ「STILL ALIVE」の着想のもとになった本シリーズは、時間や空間を超えて、生存の根源的な意味を考えさせる最もシンプルかつ深遠なものといえるでしょう。」
ふう。「コンセプチュアルアート」て何なんでしょうねえ。
荒川修作の作品は、「文字」や「図式」がたくさん描いてありました。
解説によれば、「荒川修作は、人間がものを見て意味を読み取るときのメカニズムをマドリン・ギンズとともに研究する過程で、1960年代中頃から記号、文字、数字、命題などで構成された「ダイアグラム(図式)」による絵画を描くように」なったそうです。
また橋の模型もあったのですが、
これまた解説によれば、「《問われているプロセス/天命反転の橋》(1973–1989)は、フランスのエピナール市、モーゼル川に荒川とギンズによる設計の橋をかけるプロジェクトであり、本作は全長140mの橋の1/10模型です。橋は21のセクションが連なってできており、それぞれが特定の身体的な反応を誘発するような装置となっています。タイトルにある「天命反転」とは、例えば人間の死など、私たちが必然と捉えている所与の条件を、思考方法に刺激を加えることで反転させることを意味します。荒川とギンズは、この橋を歩くことで人々が自身の身体を問い直し、死すべき天命を覆す機会を与えているのです。このプロジェクトは実現には至りませんでしたが、1990年代以降、二人は人間が「死なないために」生きられるよう設計した「天命反転」のための建築を国内外にいくつも完成させました。」
岐阜にある《養老天命反転地》なども有名ですよね。
河原温も、荒川修作も愛知県出身ですし、奈良美智は愛知県立芸術大学で学んでいますから、日本の現代美術と愛知県は深いつながりがあるんですよ。
私は、この芸術祭のほんの一部しか観れなかったのですが、タイトルの「STILL ALIVE」は、河原温の「I Am Still Alive 私はいまだ生きている」から採ったものです。ロシアとウクライナの戦争が続く中、このタイトルは意味深で、「今、を生き抜くアートのちから」を観る者すべてに伝えてくれます。
私が芸術祭に行ったのは、最終日の閉館まぎわだったので、愛知県の大村秀章知事が、会場ボランティアの人たちに手を振って感謝の言葉を述べている場面にたまたま居合わせることができました。
何気なく見ていたのですが、会場の方の話しでは、この国際芸術祭は、以前、「愛知トリエンナーレ」と言っていたのだけれど、2019年の企画展での「表現の不自由展・その後」で慰安婦問題をテーマにしたいわゆる「平和の少女像」などをめぐって「反日的な表現を許可した」として大村知事に対する批判が高まり、リコール運動にまでなったことから、名称などを変えて開催されたようです。
大村知事は、当時、企画展の内容を疑問視する河村名古屋市長に対し、「公権力は、市民の思想信条に関与することはできない。表現の自由は戦後民主主義の根幹だ」と反論していたそうですし、リコールを支持しなかった愛知県民の見識もさすがです。
挫けることなくこの国際芸術祭あいち2022を実現した大村知事もすごいし、それを支持している愛知県民おそるべし!と思いました。
実は私も、愛知県民なんですよね。
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