なんだ?これは!岡本太郎である!
— 2022年9月27日私も、こんなに沢山の岡本作品を観たのは初めてでしたし、インターネットで検索していたら、「なんだ?これは!タローマンである!」なんていう、体はウルトラマンのような、顔は太陽の塔みたいな変な巨人が「奇獣」を相手に暴れまわる?特撮ヒーロー物のテレビ番組が人気でした。
「でたらめをやってごらん」
「好かれるヤツほどダメになる」
芸術家、岡本太郎の言葉を体現しているのがタローマンだそうで、
「一度死んだ人間になれ」
「同じことをくりかえすくらいなら、死んでしまえ」
「真剣に、命がけで遊べ」
「孤独こそ人間が強烈に生きるバネだ」
「芸術は爆発だ」
とかの岡本太郎の言葉が、各回のタイトルになっています。
岡本太郎の作品としては、「痛ましき腕」(1936年(昭和11年)制作)が有名ですが、これはパリにいた時期(1930年(昭和5年)から1940年(昭和15年))に制作した25、6歳頃の作品です。
抽象画のような、具象画のような感じですよね。
パリにいた当時の岡本は、素晴らしく自由だったようです。ルーブル美術館でセザンヌに感動し、ピカソの絵画を見たときには衝撃を受け、涙が止まらなかったそうです。
でもそれだけじゃありません。当時は、ドイツのヒットラーを中心にファシズム(全体主義)が台頭し始めていた頃でなのですが、岡本はファシズムに反対する集会に参加したり、哲学や民俗学を勉強していたようです。
ドイツは1939年(昭和14年)ポーランド侵攻を開始し、これに対しイギリス・フランスはドイツに宣戦を布告して、第二次世界大戦が始まります。日本は、それ以前から日中戦争を戦っていたのですが、1941年(昭和16年)にはイギリスやオランダの東南アジア植民地地域とオーストラリアへの攻撃、そして真珠湾攻撃によるアメリカとの開戦により、いわゆる太平洋戦争(大東亜戦争)が開戦することになります。日本は、ドイツやイタリアと一緒に、アメリカやイギリス、フランスと戦争したわけですが、フランスで10年も過ごしていた岡本にとっては、この戦争はどんな思いだったでしょうか。
岡本は、1940年最後の引き揚げ船でフランスから日本に帰国するのですが、1942年には二等兵として中国の前線へ出征させられます。自動車部隊に所属していたようですが、当時、上官の肖像画を描いたりもしていたようです。
戦争が終わるのは1945年(昭和20年)なのですが、岡本はその後約1年間中国で抑留され、帰国したのは1946年(昭和21年)でした。戦火により、家は焼け、前述した「痛ましき腕」なども焼失していました。
すごいショックを受けたでしょうし、相当に屈折もしたでしょう。戦争に行っていた時期を、岡本は、「わが生涯の最悪の暗黒時代」と述べています。
今のウクライナの状況を見ても、70年以上前の第二次世界大戦の時と同じじゃないですか。ニュースを見ると毎日心が痛みます。早く戦争が終わって欲しいですね。
でも戦後の岡本太郎は、それでも挫けず、次から次へと挑戦また挑戦で、それまでの日本の画壇に「宣戦布告」し、前衛芸術運動を開始し、「絵画の石器時代は終わった」とか言い放ちます。
当時の占領軍だったアメリカにも挑戦します。マッカーサー司令官は、共産党やその支持者を公職から追放するレッドパージ(赤狩り)を指示するのですが、岡本はその頃、「森の掟」(1950年(昭和25年))を描いています。
赤い怪物が、森の住民たちに襲いかかっているような作品ですが、「日の丸の赤を彷彿とさせる赤い怪物は、国家権力の象徴。戦後、一転して民主主義国家を標榜しながら、レッドパージが横行する日本を表している。背中のチャックを開ければ、戦前と同じ軍国主義者が出てくる、というわけだ」と評されています。
岡本太郎は、「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはいけない。ここちよくあってはいけない。」と断言します。ちょっと極端だなあとも思いますが、常識に果敢に挑戦し続けているのです。
そして岡本太郎といえば、なんと言っても1970年(昭和45年)開催の大阪万博のために制作された「太陽の塔」でしょう。
この「太陽の塔」はすごい人気があり、当時は誰でも知っていたのではないでしょうか。
大阪万博のテーマは「人類の進歩と調和」ですが、この「太陽の塔」は、「進歩と調和」というよりは、タローマン風の「ベラボーなものを対決させる」ような感じを受けます。どちらかと言えば、超自然的な祈祷師(きとうし。シャーマン)っぽいとか、「呪術」(じゅうじゅつ)っぽいでしょう。
それでもタローマンは、子供たちを元気づけているそうです。
岡本太郎は、敗戦で元気を失った日本人を勇気づけ、今も私たちを元気づけてくれています。こういう戦争の痛みへの向き合い方もあるんだなあと思います。
大衆に愛された芸術家は、時を超えても人々の大きな話題となりました。
2003年、岡本太郎の巨大な壁画がメキシコの資材置場で発見されます。この壁画は、かつてメキシコのホテルのために描かれましたが、ホテルが開業前に倒産したため「幻の作品」とされていました。2005年にこの壁画「明日の神話」の日本への移設プロジェクトが始動し、2008年、ついに東京・渋谷に掲げられました。
この「明日の神話」は、JR「渋谷」駅と京王井の頭線を結ぶ渋谷マークシティ内の連絡通路に展示されている巨大な壁画で、縦5.5メートル、横30メートルの大きさがあります。実は私はこの壁画を何度も見ていたのですが、「何か骸骨や死神みたいだなあ」なんて思っていました。でもこれは岡本太郎の傑作で、原爆が炸裂する瞬間をモチーフに、その悲劇にも負けない人間の尊厳さを表現した作品だと言われています。
「太陽の塔」と同時期に制作されたのですが、ここには原爆で炸裂した人や燃え上っている人々など、核兵器の悲惨さが鮮烈に描かれています。冷戦当時に描かれたこの壁画には、未だに核兵器を盾にする人類への強い警鐘が込められていますが、決して悲観的では終わらず、人類が悲劇を乗り越えてゆく未来への希望を感じてなりません。
そして、岡本太郎は、画家として彫刻家として、時にはテレビの人気者として、あらゆる垣根を越えて活躍しました(本人にはその垣根なんてなかったのでしょうね)。
そんな岡本太郎は、日常の空間を演出することにおいても、その魅力を発揮しています。「空間とは生活だと私は言った。同時に、生活とは遊びである。」という言葉の通り、その名も「坐ることを拒否する椅子」というとてもユニークな椅子や、グラスの底に顔がある「顔のグラス」など、思わず笑ってしまうようなとても面白いデザインの食器や家具などを数多く残しています。
岡本太郎の考え方や、生き方が込められている作品には、まさに「芸術は爆発だ!」のままに突き抜けた痛快さがあり、岡本太郎自身が爆発!しているからこそ、今もなお、私たちを魅了してやまないのではないでしょうか。
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