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アンディとリキテンスタイン 似てるかなあ?

アンディ・ウォーホル(1928年8月6日 – 1987年2月22日)と、ロイ・リキテンスタイン(1923年10月27日 – 1997年9月29日)は、ほとんど同じくらいの年齢で、どちらもアメリカの1960年代からはじまるポップアートの代表的な芸術家です。
アンディといえば、キャンベル・スープ缶やシャネル N°5の瓶とか、マリリン・モンローやミック・ジャガーのポートレートなどで凄く有名ですよね。

ウォーホル

他方、リキテンスタインの方は、大衆漫画をインスピレーションの源泉に、続き漫画の1コマを、印刷インクのドット(網点)まで含めてキャンヴァスに拡大し、ドットひとつひとつまで手作業で描いた作品で有名です。

リキテンスタイン

2人とも、いかにもアメリカの大衆芸術(ポップアート)の旗手といった感じで、凄いのは、今見ても、全然古さを感じさせないことです。私の画廊でも、とても人気がありますし、もちろん国際的なマーケットでもいずれも高く評価されています。

このように似てる点が多いんです。でもちょっと深読みすると、実は相当違うんです。

アンディは、表面に徹底的にこだわります。「アンディ・ウォーホルのすべてについて知りたければ、表面だけを見ればいい。僕の絵や映画や、そして僕自身の表面だけをね。それが僕だ。背後に何もかくされちゃいない。」という有名な言葉あります。アンディは、カーネギー工科大学(現在のカーネギーメロン大学)で広告芸術を学び、大学卒業後はニューヨークで商業デザイナー・イラストレーターとして成功しているのですが、内面的で芸術的価値の高さを誇るヨーロッパのハイアートやファインアートとの違いを強調したかったのでしょうか。「広告」は、「商品」を宣伝するもののはずですが、実際には「商品そのもの」とは別の、「広告」の「表面にあらわれた何か」ですもんねえ。

ウォーホル

 ところでリキテンスタインは、漫画が有名になったわけですが、実際には作品の大部分は漫画じゃないんです。ヨーロッパのセザンヌやピカソなどの影響も強く受けているようです。リキテンスタインはオハイオ州立大学美術学部に入学し、その後大学の講師や助教授を務めていたこともあります。モダニズムの抽象画家であるピエト・モンドリアンの影響も受けていると言われています。モンドリアンの絵は、水平と垂直の直線のみによって分割された画面に、赤・青・黄の三原色のみを用いるという作品で有名なのですが、リキテンスタインの作品にも、そのような作品があります。

モンドリアン
モンドリアンの作品

 リキテンスタインは、ヨーロッパの古典や、抽象表現主義の影響を受けているようですが、そうは言っても、「素直な影響」ではなく、ある評論家によれば、「リキテンスタインには、教養ある中産階級のように尊敬の念をもって芸術をみることは不可能」だった、「彼の描くコミックや広告のイメージ」といった「クールな通俗性は、伝統的に知的で精神的なものに結びつけられてきた芸術の制度そのものに対する侮辱」だったそうです。

リキテンスタイン

リキテンスタイン

 面白いのは、リキテンスタインとアンディの「交差」です。1961年、この頃からリキテンスタインの代名詞でもあるポップ絵画を描きはじめます。そして、続き漫画の1コマを描いた作品を数点ニューヨークのレーオ・カステリ画廊へ預けたところ、数週間後に、カステリは、やはり漫画のイメージを描いたアンディの作品をカステリ画廊で見たそうです。当時2人は知り合いではなかったようですから、同時に同じ主題に到達したというのは、全く偶然なのでしょうが、「漫画」というテーマに、何かしら時代の背景があったのかもしれません。

さて、カステリは、どちらの画家と契約したでしょうか?

カステリは、リキテンスタインと契約し、アンディとは契約しなかったそうです。

アンディは、リキテンスタインの作品を見て、「ああ、なぜこれが思いつけなかったのだろう」と思い、「ロイがこんなに上手に漫画をやってるのだから、自分はきれいさっぱり漫画をやめて、自分が一番乗りになれる他の方向―量と反復の方向―に進もうと決めた」のだそうです。そしてアンディは、大成功するわけです。60年代以降のアメリカの現実や虚構をポップに描き出し、かつ、優れたセンスとユーモアでアート表現と社会性をクールに結び付けたアンディは、まさに20世紀のポップアートの旗手です。

リキテンスタイン

そして、リキテンスタインもポップカルチャーを描くだけに留まらず、量産されるイメージを伝統的な絵画に落とし込んだり、過去の名画を漫画様式で表現(コピーをコピーで表現)するという複雑な様式を用いるなど、アートの大転換点を作り上げた偉大な芸術家の一人であることは間違いありません。

リキテンスタイン

 作品の価値は、もちろんその作品そのものが持つ魅力によるものなのですが、作家の生き方や出会いについて「深読み」してみると、作品がまた一層、面白く、魅力的に映るのではないでしょうか。

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