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ギャーテイ、ギャーテイ、ハラギャーテイ

 京都へ行って、紅葉を観てきました。

 とくに素敵だったのは、夜の東寺(とうじ)の境内のライトアップでした。まあ、なんという紅葉の美しさ。五重塔や金堂(こんどう)、講堂の厳かなたたずまいと、紅葉の美しさがライトアップされていて、とても素敵でした。

東寺 ライトアップ

平安遷都(794年)とともに建立された東寺は、京都市南区九条町にある東寺真言宗のお寺で、あの有名な弘法大師空海が、密教の主尊(しゅそん)である大日如来(だいにちにょらい)を境内の中心にすえ、広大な寺域に、曼荼羅(まんだら)を表現しようとしたとのことです。「曼荼羅」って、密教の経典にもとづき、主尊を中心に諸仏諸尊の集会(しゅうえ)する姿を模式的に示したものなんですって。難しい仏教の教えは分かりませんが、金堂には、薬師如来が、そして如来の右側には日光菩薩、左側には月光(がっこう)菩薩が安置されていました。また講堂には、持国天(じこくてん)、増長天(ぞうちょうてん)、広目天(こうもくてん)、多聞天(たもんてん)といったいわゆる四天王や、それに梵天(ぼんてん)、帝釈天(たいしゃくてん)を加えた六尊の守護神が安置され、講堂の中心には大日如来が安置されていて、とてもすごい迫力でした。特別拝観が許されていたんです。

東寺 講堂

 私は、京都で、たくさんの仏様を拝んできたのですが、東京へ戻ると、今度は「籔内佐斗司退任記念展 私が伝えたかったこと」を観る機会がありました。

藪内佐斗司退任記念展

 籔内は、いわば現代の「仏師」です。普通は、彫刻家(いろいろな彫刻を制作していて、奈良の「せんとくん」のキャラクターも制作しています)で、東京藝術大学大学院教授とご紹介するのですが(大学院教授を「退任」された記念展でした)、私は、やはり「仏師」だと思います。

藪内佐斗司 せんとくん

 東京都港区にある萬年山青松寺(せいしょうじ)には、山門に、籔内の制作した持国天、増長天、広目天、多聞天が安置されています。いずれも高さが3メートルという木造彩色の大きな像で、これは現代の「四天王」です。京都で、平安時代の「四天王」を拝観し、東京で、現代の「四天王」を鑑賞したのですが、やはり籔内は「仏師」なんだなあとつくづく感じ入ります。

藪内佐斗司 作品

そして仏像ではないのですが、私の画廊には、藪内の彫った「童子」の像がたくさんあります。どの「童子」みな素晴らしい。藪内によれば、「童子は古来より神仏の使いであった。座敷わらし、笑童子(わらどうじ)、酒呑童子(しゅてんどうじ)・・縁を結び、福をもたらし、笑いとともに運気を撒いていく」ものなのです。

 藪内は、「童子」を刻むだけでなく、「開運招福 般若心経(はんにゃしんぎょう)」を書いています。「般若心経って何?」という方も多いと思いますが、意味は不明でも、「色即是空(しきそくぜくう)、空即是色(くうそくぜしき)」で有名なお経で、「西遊記」の三蔵法師(玄奘三蔵)が天竺(インド)から唐へ伝えたものと言われています。

 この本の中には、「童子」の画像がたくさん紹介されているのですが、籔内は、「西行童子」には、「悩むな、悩むな、さまよい歩きを楽しみなはれ」とか、「上向き童子」には、「いつでも楽観していれば、いずれ上向くときはくる」とか、「追い風童子」には「いつでも頑張るあなたの背からそっと風を送りましょう」、「うたたね童子」には「やるだけやったら果報は寝て待てと・・」などなど、とても面白い言葉を添えています。

 「般若心経」の「心」を添えているのでしょうか。

 「般若心経」の日本語訳はたくさんあるのですが、籔内は「浪花がたり」で訳しています。お弟子が菩薩さまに、「もしもひとが真剣に『ほんまもんの智慧』に至りたいと願ったときは、どんなことを学んで、どんなことをすればええんでしょうか?」と尋ねると、菩薩さまが、「あのなあ・・大事なことを教えたげるさかい、よう聴きや。・・ものごとが起こったの消えたの、身分が貴いの賤しいの、財産が多いの少ないのとかゆうてしょっちゅう世間では騒ぐけど、そんなもんにいったい何の値うちがあるっちゅうねん?みーんな『空』やと考えたら、どうでもええこっちやないか。せやから、自分の周りに起こるいろんなできごとに、いちいち嘆くことも、怖がることもあらへんのよ。」といった調子です。

藪内佐斗司 作品

  そして最後に、『ほんまもんの智慧』に至ったら、ギャーテイ、ギャーテイ、ハラギャーテイ、ハラソーギャーテイ、ボーディソーワカという「喜びの『「真言』が自然に口をついて出るんやで・・さあ、あんたらも一緒にこの境地に行き着こうやおまへんか」。

藪内佐斗司 作品

 この『真言』は、もともとはサンスクリット語の音訳のようで、「智慧よ、智慧よ、完全なる智慧よ、完成された完全なる智慧よ、悟りよ、幸あれ」といいった意味らしいですが、籔内の「童子」と「浪花がたり」は、「軽妙、洒脱の中に潜む諧謔(かいぎゃく)、東洋的運気に満ちあふれた作品」だと思います。
 『ほんまもんの智慧』に至るかどうかは別として、籔内の「童子」とお会いになっては如何ですか。きっとお気に入りの「童子」に巡り会えると思いますよ。

籔内佐斗司 作品一覧

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