藤田嗣治 「猫のいる風景」展と 挿画本「四十雀」「藤田嗣治とジャン・コクトー」展
— 2025年3月24日藤田嗣治 「猫のいる風景」展と 挿画本「四十雀」「藤田嗣治とジャン・コクトー」展
先日、軽井沢にある安東美術館へ行ってきました。あいにく前日に3月にも似ない大雪が降り、行った当日は晴れていたものの、雪がまだ残っていて、車がスリップして大変でした。
軽井沢安東美術館は、「藤田嗣治だけの美術館」です。
「猫のいる風景」展というだけあって、猫がたくさん居るわ居るわ。
私の画廊にも、藤田の猫は何匹も居ますが《猫十態》が全部揃うとさすがに圧巻でした。
また、《猫の教室》はとても面白い絵でした。ポーラ美術館が所蔵している《ラ・フォンテーヌ頌》を彷彿とさせる動物を擬人化した寓話で、床に寝転がる猫や後ろで喧嘩をする猫など、学校のひと場面が賑やかに楽しく描かれており、藤田らしいユニークさに溢れていました。これが最後の赤い壁の展示室に飾られていたのも大変印象に残りました。
ところで、安東美術館の安東さんのコレクションは「魅せられし河 バンドーム広場」が始まりだったようですが、偶然にも私どもの画廊で最近この作品を気に入られた方がいたので、ひょっとして安東さんの展覧会をご覧になったのかな、と思いました。
さて、藤田の作品が時代を追って順に展示されています。
はじめの展示室には、「パリに最も愛された日本人画家」としての藤田についての説明がなされ、続く展示室2「渡仏―スタイルの模索から乳白色の下地」では、1913年に渡仏した藤田の代名詞とも言える「乳白色の下地」による裸婦が展示されています。
展示室3「旅する画家―中南米、日本、ニューヨーク」には、1931年、パリを離れて中南米を訪れた際に描いた「メキシコの男」が展示されていました。
展示室4「ふたたびパリへー信仰への道」 ここにとても興味深い作品が展示されていました「除悪魔 精進行」です。
藤田は、第二次世界大戦の際に、日本政府の依頼で戦争画を描いているのですが、戦後、そのことから戦争犯罪人の嫌疑をかけられ、誹謗中傷されるようになり、1950年には、藤田は日本を離れ、フランスへ戻ります。二度と日本へ戻らないと決意した藤田は、カトリックの洗礼を受け、フランス人レオナール・フジタとして生きる道を選ぶのですが、1952年に描いたこの作品には、「ゴシップ」「からかい」「嫉妬」に苦悩した藤田が、パリへと戻り、「財もない」「アトリエもない」「名誉もない」なかで、「私に力を与えよ」と膝まずき、天を仰ぐ姿が描かれているのです。
当時の藤田はどのような思いのなかにいたのでしょうか。
戦争で大きく傷ついた藤田は、日本を去るときに「絵描きは絵だけ描いてください。仲間げんかをしないでください。日本画壇は早く世界的水準になってください。」と言葉を残しています。当時の狭い日本的な世界は、藤田にとって非常につらいものだったと察せられます。フランスに戻ることができて、いよいよ自由に絵を描ける喜びと興奮でいっぱいだったのではないでしょうか。藤田はフランスに戻る前にアメリカを経由していますが、アメリカで前述の《猫の教室》を描いています。この絵からも藤田の喜びを感じますよね。
また挿画本「四十雀」「藤田嗣治とジャン・コクトー」展も同時に開催されていました。
「四十雀」(しじゅうから)は、1963年に刊行された、フランスの小説家・詩人・映画監督など多彩な活動をしたジャン・コクトーのテキストに藤田のリトグラフ21点を組み合わせたエディション番号付きの限定本です。
戦争や暴力、社会的抑圧に批判的だったコクトーは自由・解放を象徴する鳥として「四十雀」の名をタイトルに付けることで1960年代の社会情勢を象徴的に表現したと言われていますが、それぞれの作品についての説明がとても面白かったです。
コクトーのフランス語の訳文がついているのですが、「今日、株価が下落した。崩壊の危機が迫っている。3パーセント、利率は下がり、リオの通貨は安定せず、ロシアのファンドは苦境に陥った。ビルの地下では、太い首に濃い髭を生やした男たちが、白い紙(証券など)を振り回している。」
このコクトーの言葉も面白いですが、さらに「経済の動揺やそれに翻弄される人々の様子を描いた一場面です。一方、上流社会の人々にとってこの危機はさして問題なく、彼らが贅沢な日常へと戻っていく様子が、この後、綴られていきます。そこでは上流社会の虚飾や堕落への批判が描かれています。」と解説がなされています。
藤田の作品は、単に「愛らしい」猫だけでなく、「除悪魔 精進行」にしても、戦争のさなかに生き、時代や社会に翻弄された藤田の様々な思いが現れているんだなあと感じました。
藤田は、時代時代にあわせて戦略的に画風を変え、人々が求める作品を描いていったと言われていますが、晩年はランスの教会や聖母子などを見ると、最後に自分の人生の集大成として、俗世の嫌なことに捕らわれずに宗教画を描いていたのかなあと思います。初期から晩年にかけて、大変見応えのある展覧会でした。そして、若いころから亡くなるまで、ずっと第一線で活躍していた藤田は、やっぱりすごい芸術家だとしみじみ思いました。
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藤田嗣治 「猫のいる風景」展と 挿画本「四十雀」「藤田嗣治とジャン・コクトー」展
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