ピカソとその時代 ドラ・マールとマリー・テレーズが素晴らしい
— 2023年1月30日上野の国立西洋美術館で「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」(2022年10月8日~2023年1月22日)を見てきました。
ピカソはこれまで何度も見ているのですが、「まだ見たことのないピカソ 35点が日本初公開」というだけあって、本当に、見たことのないピカソに沢山出会うことができました。
何がすごいのかなって?
ダミアン・ハースト(2022年5月27日のヨモヤマ話)もゲルハルト・リヒター(同年8月10日のヨモヤマ話)も素晴らしかったし感動もしました。奈良美智も個人的には好きですが(同年10月25日や2021年9月15日のヨモヤマ話)、ピカソ展覧会でドラ・マールとマリー・テレーズの絵がならべてあるあの空間は、半端じゃなく、緊張感があり素晴らしかったんです。
「緑のマニキュアをつけたドラ・マール」
「多色の帽子を帽子を被った女の頭部」(マリー・テレーズ)
「黄色のセーター」(ドラ・マール)
「女の肖像」(ドラ・マール)
ピカソは初期も晩年もさすがピカソで素晴らしいのですが、1936年頃の夏ごろからピカソ芸術に登場しはじめたというドラ・マールを描いた絵と、同時期に描かれたマリー・テレーズを描いたの絵には、画面からビリビリと伝わるものがありました。
ドラ・マールはシュルレアリスムの写真家であり、ピカソのパートナーでもありました。ドラ・マールの写真を見ると個性と強さと美しさのある雰囲気で、そんな彼女にピカソは創作意欲を掻き立てられます。そして、先立ってピカソのミューズであったマリー・テレーズの絵も同時に描き続けるんですね。
ピカソとマリー・テレーズ の関係は、テレーズが17歳の頃から始まっています。そのときピカソは45歳でまだ最初の妻ロシアのバレリーナのオルガ・コクラヴァと結婚していたのですが、1927年からテレーズはピカソの家族の近くに住んでおり、1935年まで妻には秘密で交際をし続けたそうです。
そして1935年にピカソがドラ・マールと関係ができはじめると、テレーズはドラに嫉妬しはじめます(当然でしょう)。ドラとテレーズが、ピカソの「ゲルニカ」制作中のピカソのアトリエで遭遇したことがあったそうです。
二人は言いあったあと、ピカソに詰め寄りました。ピカソは、「どちらかに決めるつもりはない。闘え」といったそうで、すると二人は、絵の具や絵筆の散乱する床の上で大格闘のケンカを始め、これを見ていたピカソは大満悦だったんだそうです(なんて酷い男かしら!!!)。
二人のミューズを絵の中で意識的に「同化」させるなんてこともあったとかで、複雑な関係はピカソの創作意欲をよりいっそう掻き立てたそうです。
私生活はどうあれピカソの中では芸術家としての充実があったのだろうな、だからこんなに痺れるような絵が描けたのかしら・・・なんて思いますが、怖い男性ですよね。
また、これらの作品が描かれた1936年~1940年頃は、スペイン内戦やナチスの台頭によりピカソの身の回りにも不穏な空気が強く漂っていた時期でもあり、それらの暗い影についてもこれらの作品に少なからず表現されています。
アンディ・ウォホールも勿論良いのですが(2021年4月6日のヨモヤマ話)、アンディの作品からは、歴史的な背景を見て取ることはできません。でもピカソは、第二次世界大戦などナチスによる残虐な侵略の歴史的な時代背景が絵から垣間見れます。
「大きな横たわる裸婦」
これは、「1940年6月から1944年8月まで続いたナチス・ドイツによる占領下のパリで制作された」作品だそうです。この絵の説明には、「独房のような閉ざされた部屋の中で横たわる女性の身体はねじ曲げられ、両脚は死を意味する骨の紋章のように交差している。彼女は眼を閉じて眠っているようだが、固く握りしめられた両手は、眠りの中でさえも苦痛から解放されないことを物語る。」とあります。
「この女性像は孤独や苦痛、絶望といった戦争の時代の感情の象徴」なのであり、どうしても今起こっているロシアとウクライナの戦争に思いを馳せてしまいます。
ピカソは戦争を描かなかったのですが、戦争の悲惨さは絵に現れているのです。
そしてピカソの絵は、古さを感じさせなく、未だ輝いてることに驚きを感じました。
ベルクグリューン美術館は、多くのピカソの作品を所蔵していることで有名なベルリンの美術館です。ベルクグリューンは画商で、今なら一点50億、100億位してとても手に入らないような絵画が、1940年代にはまだまだ手に入ったわけです。ベルクグリューンは、ずっとずっと先を見据えて、ピカソ、マチス、クレーあたりを集め、お客様に商売しつつ、今では世界的に有名な多くの作品をコレクションしていったんです。
人は良いものを見ると、もっともっと欲がでて来て、欲望が上を目指させます。そしてある時にその人の審美眼が確立する気がします。
欲望はきりが無くて怖いけれど、美しいものを見ると、充実した気持ち、エキサイティングしとても楽しかったと思え、満足できるんです。本当のアートみると、この感動が味わうことができて、不思議な満足感がえられます。
ベルクグリューンは、一流のコレクターとしての審美眼を持っていたんだなと思います。
ベルリン国立ベルクグリュン美術館は、パブロ・ピカソやパウル・クレーをはじ
めとする独自の優れたコレクションにより広く知られているのですが、このコレクションを築いた画商ハインツ・ベルクグリーンは1914年、ベルリンでユダヤ人の家庭に生まれ、1936年にナチス政権のユダヤ人弾圧を逃れてアメリカへ渡り、第2次世界大戦後まもなくヨーロッパへ戻り、パリで近代・現代の美術を扱う小さな画廊を経営したそうです。
でもベルクグリュンは、その類い希なる審美眼で、画商から収集家となり(回想録のタイトルは「最高の顧客は私自身」だそうです)、「仕事で手に入れた作品の中で、これはと思うものを残しておくことから」はじめて、1989年ベルリンの壁崩壊、東西ドイツ再統一を経て、再びドイツの首都となった故郷ベルリンに戻り、多くのアート作品を「和解の印」として展示するために、1996年、この美術館をオープンしたんです。
一画商からここまでのコレクションを成すということは、彼の商才や運などもあったのかもしれませんが、何よりも彼自身が一人のコレクターとして芸術を深く愛する心を持っていて、自分の審美眼を信じて磨き続けた結果なんだな、ととても勉強になりました。
「ピカソとその時代」展は、2023年2月4日(土)~5月21日(日)に国立国際美術館(大阪)へ巡回します。
是非、ご覧になってくださいね。
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